
こんにちは。チェ・ジェソクです。私は弘益大学校で建築を学び、建築会社に少しのあいだ勤めました。建築現場の仕事が自分には合わないと感じて会社を辞め、さらに学ぶことにしました。留学から戻って嘉泉大、清州大、牧園大で設計デザインの講義を担当し、原州の漢拏大学に採用されて教職に就きました。振り返ると、大学卒業後の3年ほどという短い期間の実務でしたが、学生を教えるうえで大いに役立ちました。過去の経験に捨てるものはひとつもないのだと思いました。
ずっと以前、小中高で美術部の活動をしていました。美大ではなく建築を選んで進路は分かれましたが、実務でも大学院での勉強でも、大学で教鞭を執って学生を教えるときも、建築と美術は切り離せないひとつのものだと実感しました。バウハウスを設立したグロピウスは「あらゆる造形芸術は建築へ統合されるべきだ」と述べています。建築は総合芸術です。
美術分野への関心がさらに大きくなったのは大学院に入ってからです。建築専攻の専用図書館があって、時間があるたびに立ち寄り、デザインの本はもちろん美術関連の書籍を好んで読みました。なかでもマレーヴィチやモンドリアンといった抽象画家の作品に関する本でした。このとき、自分の考える理想的なモデルを近代抽象美術のなかに見つけたのだと思います。
とくにポストモダニズムの建築家のなかに、モンドリアンやマレーヴィチの絵からアイデアを借りて設計デザインに応用した例があるのを見て驚きました。私はそこからヒントを得て、コンセプチュアリズム(conceptualism)という主題で修士論文を書きました。建築デザインと抽象美術の関連についての記述です。
教職にあるあいだは、主に建築色彩や都市色彩に関心がありました。公募展や招待作家展に出した作品も、ほとんどが色彩の実験に関するものです。教職を辞めたときは完全な自由を得た気分で、どこにも縛られず自分の時間をもてる喜びをはじめて味わいました。それまでは時間があるときだけ絵を描いていましたが、いまは南山のふもとに小さなアトリエを構えて、絵に没頭しています。
「学生であり続けよ。学ぶことをやめた瞬間、私たちはたちまち老いる」というシェイクスピアの教えを胸に刻み、描くという行為を越えて、学ぶ姿勢を持ち続けたいと思っています。
アトリエの様子
建築デザインは実現可能なかたちで表さなければならないので、美術より制約が多くあります。建築デザインは一定の規則性をもたねばならず、美術ほど自由ではないとも思います。けれど私が観察し分析したマレーヴィチやモンドリアンの絵では、こうした懸念をいくらか解消できました。
言い換えれば、絶対的な抽象性は建築デザインに適用可能だということです。とくにモンドリアンの構成はある程度の規則性をもっているので、建築デザインに応用できます。モンドリアンが初期に実験したグリッドの体系は、建築デザインの分野でも多く用いられる方法のひとつだからです。
建築デザインのモデルとなったモンドリアンの絵は、いまや私の絵の土台になりました。そこでモンドリアンだけでなく同時代に活動した幾何学的抽象画家の作品も知りたくなり、モンドリアンの参加した〈デ・ステイル〉の理念と活動に関心をもつようになりました。当時の抽象画家の作品を分析し、模写しながら、絶対抽象の画家たちはいったいどんな過程で絵を描いたのだろうと知りたくなったのです。模写しては変形し、新たに再構成を試みていますが、こうした実験の過程に何の意味があるのかと、自分に問い返すこともありました。
最初の個展(2022年)のとき、ブローシャーに何を書くべきかずいぶん悩みました。何をどう描き、どう説明するのかという悩みです。「あなたのコンセプトは何ですか」という直截な問いには戸惑いもありますが、最初の展示で悩んだ痕跡はいまも続いています。
多くの巨匠が模倣と反復の哲学を強調しています。ヴォルテールは「独創性とは模倣のみである」と言い、アンディ・ウォーホルは「すべてはただ自らを繰り返しているだけなのに、人がそれを新しいと思うのは驚きだ」と述べています。模写すること、そして反復性は私の理念となり、制作のモチーフになりました。いまは自分の仕事を探していく過程にあります。
本展の主題は「幾何学的色面の実験」としました。平易に見えるかもしれませんし、陳腐に見えるかもしれません。独特で哲学的な主題が絵を引き立てることもありますが、私がしているのは、日常でよく目にする幾何学的な要素を制作へ転換することです。私たちはそうした物理的な環境から大きくは離れられない構造のなかで暮らしているからです。
米国のある研究者によれば、人間は生まれてから死ぬまで、生涯の90%を室内で過ごすそうです。たとえば100歳まで生きるとすれば、90年は室内で暮らすということです。では、過ごしている室内空間を見渡してみると、ほとんどが大小の幾何学的なかたちをしています。私たちはときにこうした幾何学的な事物のかたちを変えたり、色を塗り替えたりします。こうした視覚的な対象を意識的に変化させることが、新しい可能性へつながることもあります。この日常性への認識、そして変化と変形への意図的な接近が、一定の時間にとどまらず変わり続けうるという前提で「実験」という語を添え、「色面の実験」としました。
幾何学的色面の実験。「事物から生じる必然的な出来事を、真の美として受け入れること。私はこれを受け入れたい。もしこの方法に慣れることができたなら、私は平凡な事物を美へと昇華させる人のひとりになるだろう」というニーチェの言葉を思い出しました。特別なものではなく平凡なもの、つまり日常のなかに創意ある実験の対象を見出すことも大切だと思います。
チェ・ジェソク プロフィール 弘益大学校 建築学科、横浜国立大学 修士・博士課程および東京藝術大学 客員研究教授、漢拏大学校 教授
個展
2022 モンドリアンとデ・ステイル
2025 幾何学的色面の実験
その他
街路空間における色彩構築(大韓民国建築大展)、住宅における色彩構成(大韓民国建築大展)
著書:デ・ステイル、オランダ近代建築、空間と人間
チェ・ジェソク個展〈幾何学的色面の実験〉
2025.4.26 -5.16
10:30 – 18:30
SUE GALLERY:ソウル特別市 中区 南山洞2街 24-9